アラサーのマッチングアプリ婚活/ VSナイツ土屋、キミに決めた!⑤
デート相手の土屋パイセンが倒したグラスには少しの氷が入っているだけだったので、隣席の女性の服を濡らしはしなかったようだった。
「すみません、すみません!」
焦る土屋さんに「全然大丈夫よお」と笑う女性は、おそらく30台半ばほど。
この辺ではあまり見ないタイプの洗練された美人で、50過ぎほどのスキンヘッドのおじさんとの2人連れだった。
しっとり和風美人と、親子近く歳の離れていそうなギラついたスキンヘッドのおじさん@評判の焼き鳥屋。
妖しい組み合わせだ。
なんとなく会社経営者と出勤前のクラブのホステスのようにも見える。
「彼女さんとデート?」
和風美人が私に微笑みかける。
いえ!マッチングアプリで知り合って、今日初めて会ったんです!
背筋を伸ばして私は答える。
「そうなの?打ち解けて見えたから意外。でもそれなら、私たちと似てるね」
和風美人がスキンヘッドおじさんに言うと、おじさんは自慢げにスマホで写真を見せてきた。
写真の中の和風美人は、ぴったりとした黒いレザーのショートパンツに網タイツを履き、開いた胸元には血が滴る大きな傷痕、ネコ科の獣のような瞳孔の小さな目で、こちらに向かってにっこりしている。
隣にはキン肉マンの被り物を被った男性。
「私たち、去年のハロウィンでたまたまコスプレパーティーで出会って、今日初めて一緒にご飯食べてるの」
ハロウィン…?
謎めいた出会いだが、ということはキン肉マンの被り物男がこのおじさんだろうか。
立派なスキンヘッドだし、何も被らず額に肉って書けばよかったのでは?
「僕たち恋人に見えた?うふふ、残念だけどエイコちゃん結婚してるんだよねえ。僕はウェルカムなのにい」
スキンヘッドおじさんは、期待に背かぬギラギラボイスで言う。
「もーカマタさん!結婚以前に、私アセクシュアルだから誰にも恋愛感情持たないって言ったじゃない」
えっ?えっ??
つづく